コートと季節の装い|チェスターコートの選び方と、春夏秋冬のジャケットスタイル

Gentleman’s Notes紳士の手帖 十一冊目コート

待ち合わせ場所で、相手が最初に目にするのはスーツではありません。寒い季節なら、コートです。

スーツの着こなしに気をつかっていても、コートの肩が合っていない、袖からジャケットがのぞく、丈が中途半端。そうすると、外で会った瞬間の印象はそこで決まってしまいます。コートは、外での第一印象をつくる一着です。

「紳士の手帖」十一冊目は、コートと季節の装いです。チェスターコート、ステンカラーコート、トレンチコートの選び方から、室内での脱ぎ方と扱い方、春夏秋冬のジャケットスタイル、雨の日の装いまでまとめました。

コートは「外の顔」|まず押さえたい3つの基本

スーツに合わせるコートには、守っておきたい基本が3つあります。

  1. ジャケットの裾が隠れる丈:コートの裾からジャケットがのぞくと、重ね着がちぐはぐに見えます。
  2. スーツの上から着て、肩が窮屈でない:コートはジャケットの上に着るものです。サイズはジャケットを着た状態で決めます。
  3. ジャケットの袖が隠れる袖丈:腕を下ろしたとき、コートの袖からジャケットやシャツが出ない長さです。

この3つを満たしていれば、コートの形や色に多少の好みが出ても、全体は崩れません。反対に、どれほど上質な生地でも、この3つが外れていると落ち着いて見えません。

定番のコート3種|チェスター・ステンカラー・トレンチ

コートは、スーツより買い替えの回数が少ない服です。一着を長く着ることになるので、流行の形より、定番の形を選んでおくと失敗がありません。ここでは、スーツに合わせやすい3つの定番を紹介します。

チェスターコート|いちばん改まった一着

チェスターフィールドコートとも呼ばれます。19世紀のイギリスの伯爵の名に由来するといわれる、テーラードジャケットをそのまま長くしたような形のコートです。

  • 襟はジャケットと同じテーラードカラー(ノッチドラペルやピークドラペル)
  • 前合わせは、シングルとダブルがある
  • 正統な仕立てでは、ボタンが前立ての内側に隠れる比翼仕立て
  • 丈は、ひざ前後

スーツとの相性がいちばんよく、ビジネスから会食、改まったディナーまで対応できます。最初の一着に迷ったら、ネイビーかチャコールのシングルのチェスターコートを選びます。

ステンカラーコート|通勤にもなじむ定番

後ろの襟が高く、前に向かって低くなる折り返し襟のコートです。ステンカラーは和製英語で、海外ではバルマカーンコートと呼ばれることが多い形です。袖は、肩から斜めに切り替えたラグラン袖のものが多く、腕を動かしやすいのが特徴です。

ビジネスの定番で、撥水性のあるコットン素材なら春と秋のスプリングコートとして、ウール素材なら冬のコートとして使えます。チェスターコートより少しカジュアルで、休日のジャケットスタイルにもなじみます。

トレンチコート|雨にも強い機能の名残り

第一次世界大戦の塹壕(トレンチ)で着られた軍用コートが起源です。ダブルの前合わせ、腰のベルト、肩のエポレット、胸元のガンフラップ、袖口のストラップなど、当時の機能を残した装飾が特徴です。

目の詰まったコットン素材のものが多く、春と秋、雨の日に重宝します。ベルトは前で結ぶかバックルに通します。使わないときは、後ろで軽く結んでおくと垂れ下がりません。

種類改まり度季節向いている場面
チェスターコート高い秋の終わり〜冬ビジネス、会食、ディナー
ステンカラーコートふつう素材しだいで春・秋・冬通勤、ビジネス、休日
トレンチコートふつう春・秋、雨の日通勤、休日、雨の日の外出

サイズの選び方|スーツの上から着て確かめる

コートを試着するときは、必ずジャケットを着た状態で行います。シャツやニットの上から合わせると、スーツの上に着たときに肩や腕が窮屈になります。

  • 肩の縫い目が、自分の肩の端か、わずかに外側にある
  • ジャケットを着た状態で、腕を前に伸ばしても背中が突っ張らない
  • ボタンを留めたとき、胸やおなかに横じわが出ない
  • 袖は、ジャケットの袖が完全に隠れ、親指の付け根あたりまで届く
  • 丈は、ジャケットの裾が完全に隠れる。ひざ前後が目安
  • 襟を返したとき、ジャケットの襟が浮かずに収まる

ゆとりを取りすぎると、着られている印象になります。ジャケットの上からでも、肩のラインがすっきりと出るものを選びます。スーツそのもののサイズ感は、紳士の手帖 二冊目「スーツ」で確認できます。

キャメルのコートをジャケットの上に羽織った男性
写真:Unsplash

色と素材|ネイビー・チャコール・キャメル

色印象合わせやすいスーツ
ネイビー誠実で、きちんとした印象グレー、ネイビー、どちらにも
チャコールグレー落ち着いていて、改まった場にも強いネイビー、グレー、黒
キャメル華やかで、休日にもなじむネイビー、グレー。ジャケットスタイルにも
ベージュ軽やかで明るい(トレンチの定番色)ネイビー、グレー

黒のコートは、改まった印象が強く、夜の席や弔事にも使えます。日常づかいなら、ネイビーかチャコールのほうが、スーツの色を選ばずに合わせられます。

冬のコートの素材は、ウールが基本です。カシミヤを混ぜたものは軽くて柔らかく、光沢があります。目の詰まったメルトンは風を通しにくく、形が崩れにくいのが特徴です。

マフラーと手袋|首元と手元の小物

マフラー

マフラーは、コートの色と同系色にすると落ち着き、差し色にすると顔まわりが明るくなります。ネイビーのコートにグレー、チャコールのコートにボルドーなど、色を一つだけ足す意識で選びます。

  • 前に垂らす:首にかけて一周させ、両端を前に垂らします。コートの前を開けて着るときに向いています。
  • 二つ折りにして輪に通す:マフラーを半分に折って首にかけ、輪の側に両端を通します。首元が詰まり、暖かくきちんと見えます。

手袋

スーツには、革の手袋が合います。色は、靴とベルトに合わせて黒か茶にします。握手をするときや、建物の中に入るときは手袋を外すのが基本です。外した手袋は、コートのポケットにしまいます。

壁に並んだ木製のハンガー
写真:Unsplash

建物に入る前に|コートの脱ぎ方と扱い方

コートは「外の服」です。ビジネスマナーでは、訪問先の建物に入る前に脱ぐのが基本とされています。外のほこりや雨粒を、室内に持ち込まないための作法です。

  1. 建物やお店の入口の手前で、マフラーと手袋を外します。
  2. コートを脱ぎ、裏地が外側になるように縦に二つ折りにします。
  3. さらに半分に折り、片方の腕にかけて持ちます。
  4. お店でクロークがあれば預けます。なければ、店員さんの案内に従い、椅子の背やかごに置きます。
  5. 帰りは、建物やお店を出てから着ます。

レストランでは、入口で店員さんがコートを預かってくれることもあります。その場合は、案内に従って預ければ十分です。

寒い中で待ち合わせるときは、相手より先に着いておくのが理想です。相手が着いたら、すぐに暖かいお店へ案内できるよう、行き先を決めておきます。外で長く立ち話をしないことも、冬の気づかいです。

相手のコートの扱い

一緒にいる相手がコートを脱ぐときは、さりげなく手を添えます。「お預かりしましょうか」と声をかけ、受け取ったら軽く畳んで、店員さんに渡すか、相手の椅子の近くに置きます。帰りに着るときは、相手の後ろで肩の位置を持ち、袖を通しやすい高さに広げます。

ただし、手伝われることを好まない人もいます。声をかけて、相手が望んだときだけ手を貸します。押しつけないことも、エスコートの一部です。

春夏秋冬のジャケットスタイル

春|軽い色と、薄手のコート

春は、ライトグレーやベージュなど明るい色のジャケットが似合います。朝晩の冷え込みには、薄手のステンカラーコートやトレンチコートを羽織ります。ジャケットの下に、薄手のニットやカーディガンを重ねる方法もあります。

夏|アンコンジャケットと麻

夏のジャケットは、軽さと通気性で選びます。

  • アンコンジャケット:肩パッドや芯地を省いた、軽く柔らかい仕立てのジャケットです。シャツのように羽織れます。
  • 麻(リネン):通気性がよく、見た目にも涼しげです。シワが出やすいのですが、それも麻らしい風合いです。シワが気になる方は、ウールや綿と混ぜた麻混を選びます。
  • 裏地の少ない仕立て:背中の上部だけに裏地がある「背抜き」などは、熱がこもりにくくなります。
  • その他の夏素材:シアサッカー、通気性のよいトロピカルウールなど。

ジャケットの下は、長袖シャツが基本です。半袖シャツにジャケットを重ねると、袖口からシャツがのぞかず、腕まわりが落ち着きません。暑い日は、ジャケットを脱いで手に持つ時間があってもかまいません。

秋|重ね着を楽しむ季節

秋は、ブラウンやオリーブなど深みのある色が映えます。ジャケットの下に薄手のニットベストやカーディガンを重ねると、季節感が出ます。肌寒くなってきたら、ウールのステンカラーコートやトレンチコートを羽織ります。

冬|生地で暖かさをつくる

冬は、フランネルやツイードなど起毛感のある生地のジャケットが合います。暖かさは、厚手のインナーを何枚も重ねるより、生地と仕立てで確保します。ジャケットの下には、薄手のVネックニットまでにとどめると、着ぶくれしません。その上にコート、マフラー、手袋で仕上げます。

雨粒のついた透明な傘
写真:Unsplash

雨の日の装い|コート・傘・靴

雨の日も、装いの考え方は同じです。濡れることを前提に、素材と持ち物を選びます。

  • コート:トレンチコートや撥水加工のステンカラーコートが向いています。カシミヤなど水に弱い素材は避けます。
  • 傘:無地のネイビーか黒の長傘が、スーツにいちばん合います。
  • 靴:ゴム底(ラバーソール)の革靴なら滑りにくく、水もしみにくくなります。
  • 濡れたあと:コートは水気を拭いてハンガーにかけ、陰干しします。ストーブなどで直接乾かすと、生地が傷みます。革靴は乾いた布で拭き、中に新聞紙を詰めて陰干しします。

相手と並んで歩くときは、傘を少し相手側に傾けます。お店に入る前には傘の水滴を払い、傘立てに置くか、店員さんの案内に従います。閉じた傘を横に持って歩くと、後ろの人に先端が当たることがあるので、縦に持ちます。雨の日でも過ごしやすいデートの組み立て方は、デートプラン例も参考になります。

よくある質問

Q. 最初の一着は、どのコートを選べばいいですか?

ネイビーかチャコールのチェスターコートです。スーツにもジャケットスタイルにも合い、改まった場でも困りません。春と秋の雨に備えるなら、二着目にトレンチコートかステンカラーコートを選びます。

Q. ダウンジャケットをスーツに合わせてもいいですか?

通勤の防寒としては実用的ですが、会食やディナーなど改まった場には、ウールのコートのほうが合います。合わせるなら、細身で光沢の少ない、丈がジャケットを隠すものを選びます。

Q. コートの手入れはどうすればいいですか?

着たらブラッシングでほこりを落とし、肩幅に合った厚みのあるハンガーにかけて休ませます。毎回クリーニングに出す必要はなく、シーズンの終わりに一度出すのが目安です。

Q. お店でコートを椅子の背にかけてもいいですか?

クロークや荷物かごがなければ、かまいません。裏地を外側にして畳み、椅子の背にかけるか、ひざの上に置きます。通路側にはみ出さないように気をつけます。

Q. 夏でもジャケットは着たほうがいいですか?

場面しだいです。レストランやホテルなど改まった場所では、アンコンや麻のジャケットを一枚持っておくと安心です。移動中は手に持ち、お店に入る前に羽織ると、暑さをしのぎながらきちんと見せられます。

まとめ

  • コートは、ジャケットの裾と袖が隠れるものを、スーツの上から試着して選ぶ。
  • 最初の一着は、ネイビーかチャコールのチェスターコート。
  • 雨と季節の変わり目には、トレンチコートかステンカラーコート。
  • 建物に入る前に脱ぎ、裏地を外側にして畳んで持つ。
  • 相手のコートは、声をかけて望まれたときに手を貸す。
  • 夏はアンコンや麻、冬はフランネルやツイード。季節は生地で表す。

CROSS ROADのキャストも、季節ごとに装いを整え、お客様と過ごす時間が快適になるよう準備しています。装いと所作を磨きながら人と向き合う仕事に興味がある方は、キャスト募集もご覧ください。

季節に合わせて装いを変えることは、その日に会う相手と、同じ季節を気持ちよく過ごすための準備です。寒い日も暑い日も、相手が快適かどうかに目を配る。それができれば、装いは自然とエスコートにつながります。

「紳士の手帖」は、これからも続きます。次の一冊でも、明日の自分を少しだけ上等にするための技術を取り上げます。

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