エスコートの基本所作|歩く・ドアを開ける・席に着くまでの気配り

Gentleman’s Notes紳士の手帖 六冊目エスコート

エスコートと聞くと、映画のような大げさな場面を思い浮かべる方もいるかもしれません。実際のエスコートは、もっと地味で、もっと細かいものです。

歩道のどちら側を歩くか。ドアを開けたあと、どちらが先に通るか。エレベーターのボタンを誰が押すか。一つひとつは数秒の動作です。けれど、その数秒の積み重ねで、相手は「この人と一緒だと安心できる」と感じます。

エスコートは、特別な日のためだけの技術ではありません。職場の来客対応でも、家族との外出でも使えます。身につけておけば、誰とどこへ行っても、落ち着いてふるまえます。

「紳士の手帖」六冊目は、エスコートの基本所作です。歩く、ドアを開ける、乗り物に乗る、席に着く。待ち合わせから席に着くまでの場面ごとに、一般的な作法と、その理由をまとめました。

エスコートの考え方|先回りより「気づき」

エスコートの目的は、相手が安全に、気持ちよく過ごせるようにすることです。自分をよく見せるための動作ではありません。この順番を間違えなければ、作法の細部で迷っても大きく外すことはありません。

  • 安全を先に:車、段差、人混み。危ないものと相手の間に、自分が立ちます。
  • 相手のペースに合わせる:歩く速さも、食べる速さも、相手を基準にします。
  • 目立たせない:相手が気づかないくらい自然なのが理想です。
  • 言葉は短く:「こちらです」「段差があります」。説明より、ひと言の案内です。

エスコートは、相手を子ども扱いすることではありません。相手は自分で歩けますし、ドアも開けられます。そのうえで、少しだけ手間を引き受ける。対等な相手への敬意として行うものです。

作法の中には、地域や場面によって違いがあるものもあります。ここで紹介するのは、日本で広く使われている一般的な形です。

歩く|車道側と、相手の歩幅

待ち合わせ

待ち合わせ場所には、約束の5分前には着いておきます。相手が探さなくて済むよう、わかりやすい場所に立ち、スマートフォンに見入らずに顔を上げておきます。相手を見つけたら、こちらから歩み寄ります。

車道側を歩く

歩道を並んで歩くときは、自分が車道側に立ちます。車や自転車から相手を守る位置です。角を曲がって車道の位置が変わったら、さりげなく後ろを回って入れ替わります。相手の前を横切るより、後ろを回るほうが歩みを止めません。

歩く速さは、相手に合わせる

男性のほうが歩幅が大きいことが多く、ふつうに歩くと相手が小走りになります。ヒールのある靴を履いている相手なら、なおさらです。ときどき横を見て、相手が自分の肩の横にいるかを確かめます。並んで歩くときの距離は、肩が触れない程度が目安です。近すぎると相手が歩きにくく、離れすぎると会話が途切れます。

  • 人混みでは半歩前に出て、道をつくります。「こちらです」とひと言添えます。
  • 段差や坂、濡れた床に気づいたら、先に伝えます。
  • 歩きながらスマートフォンを見ません。道は事前に調べておきます。
  • 信号が点滅し始めたら、走らずに次を待ちます。相手を急がせないためです。

初めての店に向かうときは、事前に地図で道順と入り口を確かめておくと、当日に迷わずに済みます。デートの組み立て方はデートプラン例も参考になります。

ドアを開ける|押すドアと引くドア

ドアは、開く向きによって動き方が変わります。基本は「自分が開けて、相手を先に通す」です。

ドアの種類動き方
引いて開けるドア自分が引いて開け、ドアを押さえたまま相手を先に通します。自分は後から入ります。
押して開けるドア自分が先に押して入り、内側でドアを押さえて相手を迎え入れます。
回転ドア自分が先に入って、ゆっくり回します。相手は後ろの区画から、無理のない速さで続けます。
自動ドア特別な動作は不要です。相手を先に通し、閉まりかけていないかだけ気にかけます。

押すドアで相手を先に行かせると、相手が重いドアを押すことになります。そのため、押すドアだけは自分が先です。通り抜けたあと、後ろに人がいれば、その人のためにも少しだけドアを押さえておきます。入り口が二重扉になっている建物では、1枚目と2枚目で同じことを繰り返します。

ドアを押さえるときは、ドアの横に体を寄せて立ちます。正面から腕を伸ばして押さえると、相手が自分の腕の下をくぐる形になってしまいます。

エレベーター・階段・エスカレーター

エレベーター

ビジネスでも使われる一般的な作法は、次のとおりです。

  • 中に誰もいないとき:案内する側が先に乗り、「開」ボタンを押して相手を迎えます。
  • すでに人が乗っているとき:外からドアを押さえ、相手を先に乗せてから自分が乗ります。
  • 乗っている間:自分は操作盤の前に立ち、行き先の階を押します。相手には奥に立ってもらいます。奥のほうが、人の乗り降りに押されにくい位置です。
  • 降りるとき:「開」ボタンを押したまま、相手を先に降ろします。自分は最後に降ります。

混み合ったエレベーターでは、無理に操作盤の前を取りにいく必要はありません。相手が人に押されない位置を確保することを優先します。

階段

上りは相手の後ろ、下りは相手の前を歩きます。どちらも、相手より一段か二段下にいる形です。相手がつまずいたとき、下から支えられる位置です。

相手がスカートのときは、上りで真後ろにぴったりつくと、相手が気になることがあります。少し距離をとるか、斜め後ろに位置を変えます。手すりのある側は、相手に譲ります。

エスカレーター

考え方は階段と同じで、上りは後ろ、下りは前に立ちます。エスカレーターは、歩かずに立ち止まって乗り、手すりにつかまるのが安全な乗り方とされています。乗る直前に、相手の足元と荷物にさっと目を配ります。荷物が多い日や、相手がヒールの高い靴を履いている日は、エレベーターを選ぶのも気配りです。

タクシーの乗り方と席

タクシーにも席の順位があります。もっとも上の席(上座)は、運転席の後ろです。続いて助手席の後ろ、後部座席の真ん中で、助手席がもっとも下の席になります。

順位席理由
1運転席の後ろ事故の際に安全とされ、乗り降りの動きも少ない
2助手席の後ろドアに近く、落ち着いて座れる
3後部座席の真ん中左右に挟まれ、窮屈になりやすい
4助手席行き先の案内や支払いをする席

ただし、日本のタクシーは、ふつう左側の後部ドアから乗ります。運転席の後ろに座るには、奥まで体を滑らせる必要があります。スカートや荷物のある相手には、その動きが負担になることもあります。

そこで、デートでは自分が先に乗って奥に詰め、相手には乗りやすいドア側に座ってもらう方法もよく使われます。迷ったら「奥と手前、どちらが楽ですか」と聞けば十分です。席の順位より、相手が楽に乗り降りできることを優先します。

タクシーを止めるときは、相手には歩道の内側や屋根のある場所で待ってもらい、自分が車道に近い側で手を挙げます。配車アプリで呼ぶ場合は、店の前など、相手を歩かせずに済む場所を乗車位置にします。

  • 行き先は自分が運転手に伝えます。住所や店名は、事前にすぐ出せるようにしておきます。
  • 降りるときは、ドアが開く前に後ろから自転車や人が来ていないか確かめます。
  • 降りたあとは、相手の忘れ物がないか、座席をひと目確認します。
落ち着いたレストランのテーブル席
写真:Unsplash

席に着く|椅子・コート・荷物

席と椅子

店に入ったら、景色の見える席や壁を背にした奥の席を、相手にすすめます。お店の方が椅子を引いてくれる店では、任せます。そうでない店では、相手の椅子を少し引き、座るタイミングに合わせて軽く前へ戻します。自分が座るのは、相手が座ってからです。ソファ席と椅子席が向かい合う店では、ソファ側を相手にすすめます。

コート

コートを脱ぐときは、相手の後ろに立ち、襟元を軽く持って袖を抜きやすくします。着るときは、袖を通しやすい高さでコートを広げて待ちます。クロークのある店では、受け取りの札を自分が預かっておきます。コートを預かって運ぶときは、裾が床につかないよう、たたんで腕にかけます。

荷物

相手のハンドバッグは、こちらからは持ちません。財布や貴重品が入った、相手の大切な持ち物だからです。重い買い物袋や大きな荷物があるときだけ、「お持ちしましょうか」と一度声をかけます。席では、荷物かごがあれば使ってもらい、なければ置き場所をお店の方に相談します。

食事を終えて席を立つときは、相手の荷物やコートの置き忘れがないかをひと目確かめます。店を出るときも、入るときと同じようにドアを開けて相手を先に通します。

黒いコートで傘をさす後ろ姿
写真:Unsplash

雨の日|傘の扱い

  • 店を出るときは、自分が先に出て傘を開き、相手を迎えます。
  • 1本の傘に二人で入るときは、傘を相手のほうへ傾けます。自分の肩が少し濡れるくらいでちょうどです。
  • すれ違う人がいたら、傘を外側に傾けて、しずくがかからないようにします。
  • 長い傘を持ち歩くときは、先を後ろに向けず、縦に持ちます。後ろの人に当たるのを防ぎます。
  • 店に入る前に、軽く振ってしずくを落とし、傘立てか傘袋を使います。

雨の日は、相手の足元も濡れやすくなります。水たまりの少ない道を選ぶ、屋根のある場所で待ち合わせる。そうした段取りも、エスコートのうちです。

相手が傘を持っていないときに備えて、折りたたみ傘を1本多く持っておくと安心です。

やりすぎないために|好みは、さりげなく聞く

エスコートの受け止め方には、人によって違いがあります。ドアを押さえてもらうのがうれしい人もいれば、何でも先回りされると落ち着かない人もいます。大切なのは、作法を正確にこなすことより、目の前の相手に合わせることです。

  • 「奥の席と手前の席、どちらがいいですか」
  • 「少し歩くのが速かったら言ってくださいね」
  • 「荷物、重くないですか」

こうした短い確認で、相手の好みは自然にわかります。断られたら、笑顔で引きます。同じ申し出を二度繰り返しません。相手が自分でドアを開けたら、「ありがとうございます」と言って続けば十分です。

慣れない店や知らない街で、相手は思った以上に気を張っています。その緊張がふっとほどけて、会話に集中できるようになる。エスコートが目指すのは、その瞬間です。

そして、別れ際です。改札やタクシーまで見送り、相手の姿が見えなくなるまでその場にいる。エスコートは、相手が無事に帰り道につくところまで続きます。

CROSS ROADは、完璧なエスコートで向き合うことを大切にしています。その考え方はCROSS ROADについてにまとめています。エスコートを仕事として身につけたい方は、キャスト募集もご覧ください。

よくある質問

Q. 歩道が広くても、車道側を歩いたほうがいいですか?

歩きます。広い歩道でも、自転車が車道寄りを走ることがあります。また、車道側に立つこと自体が、相手を気にかけているという意思表示になります。

Q. エスコートは、女性に対してだけするものですか?

いいえ。年上の方、目上の方、初めてその場所を訪れる方など、誰に対しても使える気配りです。根っこにあるのは、相手を大切にする気持ちです。

Q. 混雑した駅で、はぐれないコツはありますか?

次に曲がる方向や降りる出口を、先に伝えておきます。「次の改札を出て右です」と言っておけば、人に押されて少し離れても合流できます。人の流れが多い場所では、相手が自分の視界から外れない位置を保ちます。

Q. 慣れていなくて、動きがぎこちなくなります。

最初から全部をこなそうとしなくて大丈夫です。まずは「車道側を歩く」と「ドアを開けて先に通す」の2つから始めます。この2つが自然にできると、ほかの動作も続けて身につきます。

Q. 「そこまでしなくていいですよ」と言われたら?

そのまま受け止め、その日は控えめにします。気遣いは、押しつけた時点で相手の負担になります。車道側を歩くなど、相手が気にならない程度のものだけを続ければ十分です。

まとめ

エスコートは、相手の安全と心地よさを、言葉より先に動作で示すことです。

  • 歩くときは車道側に立ち、歩幅は相手に合わせる。
  • 引くドアは相手を先に、押すドアは自分が先に入って押さえる。
  • エレベーターは、誰もいなければ先に乗って「開」を押す。降りるときは相手が先。
  • 階段とエスカレーターは、上りは後ろ、下りは前。
  • タクシーの上座は運転席の後ろ。ただし、乗り降りのしやすさを優先する。
  • 好みは短いひと言で確かめる。断られたら、笑顔で引く。

所作は練習すれば身につきます。相手を見る目だけは、毎回、新しく向け直すものです。

次の『紳士の手帖』では、レストランでのふるまいを取り上げます。

この記事を書いた人

CROSS ROAD運営

記事一覧